健康増進のための運動の一環として、通勤に自転車を利用する従業員が増えており、また業務の移動についても近隣は自転車を利用するケースが見受けられます。近年、この自転車に関して、相手方を死傷させた場合に高額の損害賠償を求められるようなケースが出ていることから、条例で自転車損害賠償保険等への加入を義務付ける動きがみられるようになっています。そこで今回は、自転車利用の取扱いと保険の加入義務付けの動きについて考えてみましょう。
1.自転車事故の高額損害賠償請求
自転車事故の損害賠償に関する裁判例としては、神戸地方裁判所の平成25年7月4日判決がよくとり上げられます。これは、男子小学生が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路で歩行中の女性と正面衝突し、女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負って意識が戻らない状態となり、裁判所が9,521万円の損害賠償の支払いを命じたというものです。
こうした高額の損害賠償が求められる理由は、道路交通法第2条において自転車が「軽車両」として定義され、自動車と同じ車両として考えられていることにあります。そのため、自転車に乗る際には、自動車の運転と同様に安全運転についての義務や責任を負うことになり、事故発生時には、自動車事故と同じような取扱いがなされています。
2.損害賠償保険等への加入義務付けの動き
1.の高額な損害賠償を求められるといった神戸地方裁判所の判決を受け、兵庫県では平成27年10月より、全国で初めて自転車損害賠償保険等への加入を条例で義務付けました。そして、この動きは他の自治体にも波及し、大阪府や名古屋市でも同様の動きが出ています。その他、京都府や愛媛県等では、条例で自転車損害賠償保険等への加入を努力義務として定めています。
この自転車損害賠償保険等については、自動車保険や火災保険の特約、自転車向け保険等、様々な種類があります。保険により補償額や保険料等が異なりますので、必要だと思われる保険を選択する必要があります。業務で自転車を利用している場合と、通勤で自転車を利用している場合について、どこまで保険の加入を行い、義務付け、そして加入しているかの確認を行っていくかを検討しておくべきでしょう。なお、保険の種類のひとつに、自転車安全整備店で点検整備を行うことで加入できるTSマーク付帯保険もあります。
業務または通勤に自転車を利用しているときに、従業員が自転車で事故を起こし損害賠償を求められた場合には、企業は使用者責任が問われる可能性があります。自転車だからということで安易に考えず、この機会に自転車損害賠償保険等への積極的な加入を行いたいものです。
■参考リンク
兵庫県「「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」について」https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk15/jitensyajyourei.html
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。