小売業、社会福祉施設、飲食店において、転倒や腰痛などの労働災害が増加していることを受け、この1月より「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」が実施されています。そこで今回は、この推進運動が行われる背景と内容、企業に求められる対応についてとり上げましょう。
1.労働災害の状況
厚生労働省では、産業構造の変化や労働者を取り巻く社会情勢の変化に対応し、労働者の安全と健康を確保するために、5年ごとの労働災害防止計画を策定しています。現在の計画は平成25年度から平成29年度までを計画期間としていますが、小売業、社会福祉施設、飲食店については、休業4日以上の労働災害件数が増加傾向にあり、目標と反対の状況となっています。
2.「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」とは
このような状況を受け、災害防止の取組を促進させるために今月より「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」が初めて実施されることになりました。そして、この推進運動では以下の4つの取組が行われています。
①関係業界団体などに対する要請・企業などに対する周知
約70の関係業界団体などに対して、今回実施する推進運動の取組の促進について協力を要請し、都道府県労働局などから企業・法人に対して、今回の推進運動の取組を実施するよう周知を行う。
②取組を支援するための情報提供(特設サイトの開設)
厚生労働省のホームページ「職場のあんぜんサイト」内に、特設サイト「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」を開設し、以下のような情報を掲載することで、小売業、社会福祉施設、飲食店における労働災害防止対策を推進する。
・小売業、社会福祉施設、飲食店における労働災害統計、災害事例の提供
・労働災害を防止するための対策や好事例の紹介
・労働災害を防止するためセミナー、教育用教材の紹介
■「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」特設サイト
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/sanjisangyo.html
③労働災害件数が多い企業などに対する取組促進の指導
労働災害件数が多い多店舗展開企業などの本社などに対して、経営トップによる安全衛生方針の表明、作業マニュアルの作成・周知など、店舗・施設における安全衛生活動の活性化に向けた取組について、チェックリストを活用して指導する。
④中央労働災害防止協会による支援
中央労働災害防止協会において、この運動に基づく労働災害防止対策の推進に役立つ情報の発信、セミナーの開催、専門家による安全衛生指導などを行う。
3.企業に求められる対応
特に店舗などでは安全担当者の選任などが義務付けられていないことから、企業の本社が主導する全社的な取組が効果的とされています。これについては2.③の具体的な取組として、厚生労働省よりリーフレット「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」が公開されており、本社・本部が実施する事項と店舗・施設が実施する事項がピックアップされています。例えば以下のような事項が掲げられており、このようなチェックリストを活用しながら、本社が主導しながら、現場で具体的な対策ができるようにしていくことが求められます。
【本社・本部】
・店舗・施設における安全衛生担当者(衛生管理者、衛生推進者、安全推進者等)の配置状況を確認していますか。
・店舗・施設の安全衛生担当者に対する教育を実施していますか。
・リスクアセスメント(職場の危険・有害要因を特定し、リスクの大きさを評価すること)を実施してその結果に基づく対策を講じていますか。
【店舗・施設】
・KY(危険予知)活動による危険予知能力、注意力の向上に取り組んでいますか。
・危険箇所の表示による危険の「見える化」を実施していますか。
・店長・施設長、安全担当者による定期的な職場点検を実施していますか。
今回は、小売業、社会福祉施設、飲食店に対するものですが、どの企業においても、労働者の安全対策は多かれ少なかれ必要なものであり、どのような対策ができるのか検討し、労働者が安全で安心して働くことのできるようにしていきたいものです。
■参考リンク
厚生労働省「「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」を初めて実施します」http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000145844.html
厚生労働省 リーフレット「働く人に安全で安心な店舗・施設づくり推進運動」
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11302000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Anzenka/0000146227.pdf
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。